離婚協議書(協議離婚合意書)・離婚給付等契約公正証書
離婚の際、何らかの書面(離婚協議書・公正証書等)で経済的な給付条件(婚姻費用の分担の清算・財産分与・慰謝料・養育費等)を定めた場合であっても、約束通り最後まで支払いが完了される割合は約3割です(統計)。 特に財産分与や慰謝料に関しては、一括払いが大原則になります。 実行が無理な場合でも最大で3回払いが限度です。 それ以上になると、支払いがなくなることが多いのです。
また、公正証書には強制執行認諾条項を盛り込むのが一般ですが、お相手に資力・資産がなければ差押すらできません。
しかしながら、支払いの完了率が3割であっても、約束はやはり書面にしておかねばなりません。口約束だけですと、残念ながら実行は期待できないでしょう。 そして、約束して書面を交わすのは、必ず離婚前に行ってください。
※お住まいに住宅ローンが残っている場合は、財産分与の取り決めにお
いては工夫が必要になります。
【夫が所有者兼債務者の住宅ローン付の住居に引き続き住む場合の工夫】
(母親と子供が住み続けるケース)
不動産名義を夫のままにして、引き続き夫が住宅ローンを継続して払
うことが多いのが実際です。ここで、財産分与を原因として不動産名
義を妻に変えると、銀行等のローン債権者から契約上の期限の利益の
喪失あたるとして、一括返済の請求をされる場合があります。したが
って、不動産名義を変えるときは、銀行等の債権者の承諾が必要にな
ります。
ちなみにローンの債務者の変更については、銀行等の債権者の承諾は
得られないのが一般的です。
(母親と子供が住み続け、将来住宅ローンが完済されたことを条件に、
その住まいを妻へ財産分与として譲渡するケース)
・ローン完済を条件とする妻への所有権移転請求権の仮登記をしてお
くと安心です。この場合、銀行等の承諾は不要です。
・さらに、安全策として、ローン債務者の夫の不払いを事前に発見す
るために、妻が夫に代わって銀行等の債権者に支払う(履行の引受
=第三者弁済)やり方があります。
銀行等の債権者との関係では債務者のままである夫が、妻(履行の
引受=第三者弁済)の弁済資金を弁済期限に合わせて妻へ支払うも
のです。 もし、夫から妻への支払いがないときに備えて、妻の夫
に対する事前求償金の支払い約束に基づいて、公正証書の中で夫に
対する強制執行認諾条項を設けることを検討します。
【この場合の離婚給付等契約公正証書 / 離婚協議書の定め方の例】
(夫=甲)、(妻=乙)
第3条(財産分与)
1 甲は、乙に対し、下記不動産(以下「本件不動産」という。)を財産分
与として譲渡することとし、同不動産について財産分与を原因とする所有
権移転登記手続をする義務があることを認める。
※ローンの完済という条件付きの所有権移転仮登記(2号仮登記)をし
ておく意義もある。
2 甲は第4条の住宅ローン債務が完済されたとき又は甲がその債務につい
て免責されたときに、乙に対し、本件不動産について、上記財産分与を原
因とする所有権移転登記手続をする。登記手続に要する費用は、乙の負担
とする。
※ローンの完済という条件付きの所有権移転仮登記(2号仮登記)をし
ておく意義もある。
3 本件不動産に課せられる固定資産税等の公租公課は、所有権移転登記が
される日までは甲の負担とし、その翌日以降は乙の負担とし、本件不動産
の管理、補修に要する費用は、乙の負担とする。
第4条(住宅ローン債務の弁済)
1 本件不動産取得の際、甲が●●銀行から借り受けた別紙目録記載の借受
金(●●信用保証株式会社の保証付)の令和●年●月●日時点における残
債務については、その履行方法として、乙が甲に代わって●●銀行に支払
うこととする。
2 甲は、乙に対し、前項の債務の弁済資金として、令和●年●月から令和
●年●月まで毎月●日限り、別紙目録添付の弁済一覧表の弁済額欄記載の
金員を、乙の指定する金融機関の預金口座に振り込んで支払う。振込手数
料は甲の負担とする。
(略)
第10条(強制執行認諾) ※公正証書の場合
(略)
(別紙目録)省略
借入日、借入金額 弁済方法を記載した一覧表等
一般的な離婚協議書の項目例
概ね以下の項目について十分に吟味点検して、将来の生活に備えて協議してきめたことがらを協議書に盛り込みます。
1 住む場所等
✔ 離婚後に住所(住民登録の変更がない場合も)・勤務先・職業等
を変更した場合の通知義務
✔ 再婚した場合の通知義務
✔ 電話番号(携帯電話を含む)・メールアドレスを変更した場合の
通知義務 振込口座を変更した場合の速やかな通知義務
2 子どもの親権
✔全ての親権を同居親が持つ場合(監護・養育権+子供の財産の管理
処分権)
✔別居親が親権を持つ場合
別居親→ 親権(子供の財産の管理処分権のみ)
同居親→ 監護・養育権=保護者
3 養育費:(同居親が権利者・別居親が義務者)(調停では免れない)
2016年統計 養育費の支給を受けている母子世帯は25%弱
4 財産分与:普通は折半清算(3回払いまで、それ以上だと不履行になり
やすい)
5 婚姻費用の分担
✔ 離婚調停と同時に別途に婚姻費用調停の申立を行う→ 婚姻費用
調停が先行し行われる→ 申立のときまでの分は裁判官が先行し
て決めます。
6 損害賠償請求(慰謝料請求)(横浜家裁:50~150万円が認定の中
心相場)
✔ 配偶者のみに請求
✔ 不倫相手にのみ請求
✔ 配偶者と不倫相手に請求
✔ 離婚を余儀なくされたこと自体について請求は、配偶者にのみ請
求することができます。 不倫が原因でも不倫相手に離婚自体に関
する慰謝料請求は不可(判例)
【Q&A】
Q:慰謝料請求の額には算定表などの基準や目安がありますか?
A:基準や目安は有りません。裁判官が過去の裁判例を参考に、事案を審
理して裁判官の裁量で決められます。
7 子供の氏の変更の裁判所の許可を前提にして、子供と一緒の新しい戸籍
をつくること
✔ 旧姓で子供と共に新戸籍
✔ 婚姻姓で子供と共に新戸籍
8 旧姓に復氏せずに、婚姻姓を続称するときは、念の為、相手の承諾をと
ることをお勧めします。
9 面会交流のやり方
✔ 提携パターン(融通のきく設計)で一旦定める(開始時期、期
間、場所・時間・宿泊、第三者の同伴、アポの方法)
✔ 別居親の権利でもある→ 調停では、慎重な実行方法を定める方
向(例外:自害・他害・連れ去りのオソレが有る)
✔ 面会交流を求めての押しかけ→ 押しかけが一回あれば、警察に
よる対策が実施される可能性あり。押しかける予告だけでは、警
察はご相談レベルで終わりやすいです。
10 年金分割
✔ 婚姻中の厚生年金部分について
✔ 年金情報通知書請求(1ヶ月程かかる)→ 同居中なら、郵送を避けて年金事務所の窓口でもらいましょう。 45歳以上なら将来の年金受給予定額もわかる(45歳未満なら対象期間と総保険料納付額の情報)。 通知書の記載を踏まえて、協議書、調停調書・審判書や公正証書に分割割合を記載します。→ 離婚後、すぐに年金分割請求しましょう(2年内)。
11 負債の存在確認と分担
自動車ローン・生活費のための借入れ、分割払の購入物・サービス等
12 子供・学資保険・生命保険
✔ 学資保険:(子供又は契約者が受取人(契約者の3親等以内が普
通)になっていることが多い。)
保険料の残額を完済し、受取人を同居親とする変更手続を行った上で、保険証券を同居親に引き渡す。学資目的の資金だから、親権を持つ同居親が全部預かればよく、半分を別居親へ渡す必要はありません。
変更手続ができるのは、契約者のみ。但、変更申請用紙が送られてきたら、同居親が記入して別居親のサインをもらうやり方も事実上可能です。 離婚後に変更する場合は、子供への受取人変更のみ可能、その場合でも、振込口座は別居親のものままだから、必ず離婚前に同居親の口座に変更をしておくこと肝心です。
✔ 生命保険:解約して、返戻金を折半するのが筋
13.事情変更の原則の場合の定め
✔ 私立学校・大学の入学金、学費
✔ 大病の治療費
✔ 失業、再婚した場合の、各費用負担割合・額の減額見直し
14.清算条項
✔ 事情変更の原則の場合を除き、債権債務一切ないことの確認で
す。
✔ 離婚後、お互いに迷惑となる行為は一切行わないことの約束をし
ます。
※相手の銀行・信金・信組・郵貯・証券会社等の支店に関する手控
も用意
離婚給付等契約公正証書について
離婚の際の取り決めを公正証書にしておく一番のメリットは、給付や支払いが不履行になった場合、いざというときには、公正証書を執行証書にして相手の財産に対して強制執行をすることができる点です。
また、公証人の手続きによって離婚条件を交わすわけですから、意思表示についてそれ相応の責任感が生じるわけです。
必要事項についてご不明なときは、相手の言い分に任せずに、ご損や後悔のないよう必要十分な内容を盛り込む必要があります。 取り決めるべき事項については、行政書士等の専門職と相談して、あらかじめ点検を重ねておくことがお勧めです。 行政書士等の専門職は、ご事情に応じて取り決めるべき事項を吟味して、公証人と折衝を行って公正証書の原案を作成する支援を行っています。
【Q&A】
Q:私は公証役場に行けますが、夫については先生が代理してもらうことは
できますか?
A:それは、実質的に双方を代理することになり好ましくありません。お相
手に公証役場に来ていただいて、行政書士等の専門職がご相談者様の代
理を務めるのが正しいやり方です。
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