離婚協議書(協議離婚合意書)・離婚給付等契約公正証書
離婚の際、何らかの書面(離婚協議書・公正証書等)で経済的な給付条件(婚姻費用の分担の清算・財産分与・慰謝料・養育費等)を定めた場合であっても、約束どおり最後まで支払いが完了される割合は約3割(統計)です。
財産分与や慰謝料に関しては、一括払いが大原則になります。一括払いが無理な場合でも最大で3回払いが限度です。それ以上になると、支払いが止まることが多いです。
また、公正証書には強制執行認諾条項を盛り込むのが一般ですが、お相手に資力・資産がなければ差押すらできません。
支払いの完了率が3割であっても、約束はやはり書面にしておかねばなりません。口約束だけですと、残念ながら実行は期待できないでしょう。そして、約束して書面を交わすのは、必ず離婚前に行ってください。
【一般的な離婚協議書(協議離婚合意書)の項目】
概ね以下の項目について十分に吟味点検して、離婚後の生活に備えて協議してきめた内容を盛り込みます。
1 住む場所等
✔ 離婚後に住所(住民登録の変更がない場合も)・勤務先・職業等を変更した場合の通知義務
✔ 再婚した場合の通知義務
✔ 電話番号(携帯電話を含む)・メールアドレスを変更した場合の通
知義務 振込口座を変更した場合の速やかな通知義務
2 子どもの親権
✔ 全ての親権を同居親が持つ場合(監護・養育権+子供の財産の管理
処分権)
✔ 別居親が親権を持つ場合
別居親→ 親権(子供の財産の管理処分権)
同居親→ 監護・養育権=保護者
3 養育費:(同居親が権利者・別居親が義務者)
✔ 調停においては必ず養育費に関する取り決めを行います。
2016年厚生労働省統計:
養育費の取り決めをしている母子家庭は約43%、そして実
際に養育費の支給を受けている母子世帯は約24%にすぎな
い。
4 財産分与:普通は折半で清算する。
✓一括払いが原則。事情により分割払いの合意をする場合は、多くても
3回払いが限度。それ以上だと不履行になりやすいです。
✓ 住宅ローンが残っているお住まいの取り扱いは、例えば下記14以下
に掲げるような工夫が必要になります。
5 婚姻費用の分担請求(だけを家庭裁判所へ申立てをすること可)
✔ 離婚調停(夫婦関係調整調停)の申立と同時に、別途の婚姻費用分
担請求調停の申立を行う→ 婚姻費用に関する調停が先行し行われ、
申立のときまでの分は裁判官が先行して決めます。
6 不倫損害賠償請求(不貞慰謝料請求)
※横浜家裁:50~150万円が認定の中心相場
✔ 配偶者に対してのみ請求
✔ 不倫相手に対してのみ請求
✔ 配偶者と不倫相手の双方に対して請求
✔ 離婚を余儀なくされたこと自体についての請求は、配偶者に対して
のみ請求することができます。
不倫が原因の離婚であっても不倫相手に離婚自体に関する慰謝料請
求は不可。(判例)
【Q&A】
Q:慰謝料請求額に関する算定表などの基準や目安がありますか?
A:基準や目安は有りません。裁判官が過去の裁判例を参考に、事案を審
理して裁判官の裁量で決められます。
7 子供の氏の変更の裁判所の許可を前提にして、子供と一緒の新しい戸籍を
つくること
✔ 旧姓で子供と共に新戸籍
✔ 婚姻姓で子供と共に新戸籍
8 旧姓に復氏せずに、婚姻姓を続称するときは、念のため相手の承諾をとる
ことをお勧めします。続称する場合は、離婚届と同時に離婚の際に称して
いた氏を称する届を提出することをお勧めします。
9 面会交流のやり方
✔ 提携パターン(融通のきくゆとりがある設計)で一旦定める(開始
時期、期間、場所・時間・宿泊、第三者の同伴の有無、アポの方
法)
✔ 別居親の権利でもある→ 調停では、原則的に、慎重だが実施方法を
定める方向で話し合いが行われる。
(例外:自害・他害・連れ去りのオソレが有る場合)
✔ 面会交流を求めての押しかけ→ 押しかけが一回あると、警察による
対策が実施される可能性が生まれます。
押しかけの予告があるだけの場合は、警察ではご相談で終わる傾向
です。
10 年金分割
✔ 婚姻中の厚生年金部分について
✔ 年金情報通知書請求(1ヶ月程かかる)→ 同居中なら、郵送を避け
て年金事務所の窓口でもらいましょう。45歳以上なら将来の年金
受給予定額もわかる(45歳未満なら対象期間と総保険料納付額の
情報のみ)。通知書の記載を踏まえて、協議書、調停調書・審判書
や公正証書に分割割合を記載します。→ 離婚後、すぐに年金分割請
求しましょう(2年内)。
11 負債の存在確認と分担
✓住宅・事業・自動車ローンや生活のための借入れ、分割払いの購入物
又はサービス等に関して、それを負担する者を確認する。
12 子供・学資保険・生命保険
✔ 学資保険:子供又は契約者が受取人(契約者の3親等以内が普通)
になっていることが多い。
保険料の残額を完済し、受取人を同居親とする変更手続を行った上
で、保険証券を同居親に引き渡す。学資目的の資金だから、親権を
持つ同居親が全部預かればよく、半分を別居親へ渡す必要はありま
せん。
変更手続ができるのは、契約者のみ。
ただし、変更申請用紙が送られてきたら、同居親となる者が記入し
て、別居親となる者のサインをもらうやり方も事実上可能です。
離婚後に変更する場合は、子供への受取人変更のみ可能、その場合
でも、振込口座は別居親のものままだから、必ず離婚前に同居親の
口座に変更をしておくこと肝心です。
✔ 生命保険:解約して返戻金を折半するのが筋
13 事情変更の原則の場合の定め
✔ 私立幼稚園~私立高校・大学(私立、公立共)の入学金、学費
✔ 大病の治療費
✔ 失業、再婚した場合の各費用負担割合・額の減額見直し
※公立幼稚園~公立高校までの教育費は標準算定表に織込み済み
14 清算条項
✔ 事情変更の原則の場合を除き、相互に債権債務が一切ないことの確
認します。
✔ 離婚後、お互いに迷惑となる行為は一切行わないことの約束をしま
す。
※相手の銀行や証券会社等の支店に関する手控えも用意する。
※財産分与における不動産の取り扱い:
お住まいに住宅ローンが残っている場合、財産分与の取り決めにおいては、
条件の設定等の工夫が必要です。例えば以下のようです。
【夫が所有者兼債務者の住居に、母親と子が引き続き離婚後も住む場合】
(所有者名義の変更は要注意!)
不動産名義を夫のままにして、引き続き夫が住宅ローンを継続して払
うことが多いのが実際です。ここで、財産分与を原因として不動産名
義を妻に変えると、銀行等のローン債権者から契約上の期限の利益の
喪失あたるとして、一括返済の請求をされる場合があります。したが
って、不動産名義を変えるときは、銀行等の債権者の承諾が必要にな
ります。
ちなみにローンの債務者の変更については、銀行等の債権者の承諾は
得られないのが一般的です。
(母親と子供が住み続け、将来住宅ローンが完済されたことを条件に、妻
へ財産分与として譲渡するケース)
・ローン完済を条件とする妻への所有権移転請求権の仮登記をしてお
くと安心です。この場合、銀行等の承諾は不要です。
・さらに、安全策として、ローン債務者の夫の不払いを事前に発見す
るために、妻が夫に代わって銀行等の債権者に支払う(履行の引受
=第三者弁済)やり方があります。
銀行等の債権者との関係では債務者のままである夫が、妻(履行の
引受=第三者弁済)の弁済資金を弁済期限に合わせて妻へ支払うも
のです。もし、夫から妻への支払いがないときに備えて、妻の夫に
対する事前求償金の支払い約束に基づいて、公正証書の中で夫に対
する強制執行認諾条項を設けることを検討します。
【この場合の離婚給付等契約公正証書 / 離婚協議書の定め方の例】
(夫=甲)、(妻=乙)
第3条(財産分与)
1 甲は、乙に対し、下記不動産(以下「本件不動産」という。)を財産分
与として譲渡することとし、同不動産について財産分与を原因とする所有
権移転登記手続をする義務があることを認める。
※ローンの完済という条件付きの所有権移転仮登記(2号仮登記)をし
ておく意義もある。
2 甲は第4条の住宅ローン債務が完済されたとき又は甲がその債務につい
て免責されたときに、乙に対し、本件不動産について、上記財産分与を原
因とする所有権移転登記手続をする。登記手続に要する費用は、乙の負担
とする。
※ローンの完済という条件付きの所有権移転仮登記(2号仮登記)をし
ておく意義もある。
3 本件不動産に課せられる固定資産税等の公租公課は、所有権移転登記が
される日までは甲の負担とし、その翌日以降は乙の負担とし、本件不動産
の管理、補修に要する費用は、乙の負担とする。
第4条(住宅ローン債務の弁済)
1 本件不動産取得の際、甲が●●銀行から借り受けた別紙目録記載の借受
金(●●信用保証株式会社の保証付)の令和●年●月●日時点における残
債務については、その履行方法として、乙が甲に代わって●●銀行に支払
うこととする。
2 甲は、乙に対し、前項の債務の弁済資金として、令和●年●月から令和
●年●月まで毎月●日限り、別紙目録添付の弁済一覧表の弁済額欄記載の
金員を、乙の指定する金融機関の預金口座に振り込んで支払う。振込手数
料は甲の負担とする。
(略)
第10条(強制執行認諾) ※公正証書の場合
(略)
(別紙目録)省略
借入日、借入金額 弁済方法を記載した一覧表等
【離婚給付等契約公正証書】
離婚の際の取り決めを公正証書にしておく一番のメリットは、給付や支払いが不履行になった場合、いざというときには、公正証書を執行証書にして相手の財産に対して強制執行をすることができる点です。
また、公証人の手続きによって離婚条件を交わすわけですから、意思表示についてそれ相応の責任感が生じるわけです。
必要事項についてご不明なときは、相手の言い分に任せずに、ご損や後悔のないよう必要十分な内容を盛り込む必要があります。 取り決めるべき事項については、行政書士等の専門職と相談して、あらかじめ点検を重ねておくことがお勧めです。 行政書士等の専門職は、ご事情に応じて取り決めるべき事項を吟味して、公証人と折衝を行って公正証書の原案を作成する支援を行っています。
【Q&A】
Q:私は公証役場に行けますが、夫については先生が代理してもらうことは
できますか?
A:それは、実質的に双方を代理することになり好ましくありません。お相
手に公証役場に来ていただいて、行政書士等の専門職がご相談者様の代
理を務めるのが正しいやり方です。
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